HACCPシステムについて
食品製造事業者が消費者にとって安全な食品製造を実現させるための食品製造システムのひとつです。
※HACCP ←「ハサップ」と読みます。
食品を製造するにあたっては、特定の製造工程管理を失敗すると消費者にとって危険な食品になってしまうという食品製造工程上の重要な管理点が存在します。
例えば「殺菌」という製造工程です。
必要かつ十分な殺菌がなされなければ、出来上がる最終製品は病原菌により汚染された状態になり、消費者の健康にとっては大変危険な食品になってしまいます。
HACCPシステムでは、、
- (1) 消費者にとってどのような危害要因があるかを製造工程全体を通じて事前に調べて(評価)、
- (2) それらの危害要因のうち、この管理を失敗すれば消費者に致命的かつ重篤な事故が起こり得るという製造工程と危害を特定し、(例えば、製造工程:「殺菌」と危害:「病原菌による汚染」など)
- (3) 特定した製造工程と危害を予防的に徹底管理していく
という流れで安全な食品製造の達成を目指しています。
HACCPを理解する上で必要な「用語」
入門レベルでも必要な「用語」をまず押さえておきましょう!
「ハザード」
消費者の健康を害する恐れのある源(原因)で、「危害」とも言います。
「前提条件プログラム」
HACCPシステムを導入すれば、それだけで安全な食品製造が達成出来るか?といえば、その答えはNO です。
工場の中にネズミが出没する、工場の中を野良猫や野良犬が走り回っている、衛生的な清掃・洗浄もされていない、、そのような工場でHACCPシステムを導入しても、安全な食品製造は達成できません。(そもそも導入はできませんが)
このようにHACCPシステム導入以前にしておかなければならない事があります。
それらをまとめて、「前提条件プログラム」= PRP (ピーアールピーと読む)と言います。
「適正製造基準」
食品製造における安全と衛生を確実にするために食品製造業者が実施しなければならない事で、代表的なものにはGMPs規則(ジーエムピーと読む)というものがあります。
「衛生管理手順」
上記のGMPs の特定の分野(例えば、加工環境や従業員の衛生)を確実にするために食品製造業者が適用する手順のこと。代表的なものにはSCPs手順(エスシーピーと読む)というものがあります。
「重要管理点」
この製造工程管理を失敗すると消費者にとって大変危険な食品になってしまうというような、特定された管理点のこと。例えば、「殺菌」「異物検出」などがあります。
HACCPシステムでは、この重要な管理点のことをCCP(シーシーピーと読む)と呼びます。
「管理基準」
ある特定の管理における基準のこと
「許容限界」
「重要管理点」CCPにおける管理の基準のこと。
例えば、「殺菌」管理における75℃ 1分保持のような管理の合格と不合格の境目のことで、この境界を逸脱してしまうと製品は安全でない可能性が高まってしまいます。
「モニタリング」
特定の管理点において、設定した管理基準が守られているかどうかを観察すること。
「改善処置」
管理基準の逸脱が発生した時に取る処置のこと。
「フローダイアグラム / フローチャート」
製造工程を詳細に図式化したもの。
「ハザード分析」
製造の各工程において、どのような食品安全上の危なさ(危害 / ハザード)が存在するかを分析すること。
この手法を用いて、この部分の管理を失敗すると消費者の健康に大変な悪影響を及ぼしてしまうという点=重要管理点を探し出していきます。
「検証」
ある管理点において、基準が守られているかどうかは観察(モニタリング)により確認されます。
モニタリング作業の終了後に、やり終えた仕事=モニタリングが適切であったかどうかを第三者に証明できるほどの強さを持って確認することを「検証」と言います。
HACCPシステムとは何か?
それでは、超入門レベルでのHACCPシステムの概要についてお話していきます。
HACCPシステムを見ていくと、「12手順」や「7原則」という表現を目にします。超入門編のこのコンテンツでは「7原則」を概説していきます。
「7原則」
ここでズバリ「7原則」を一気にお伝えします。
この部分は最初に暗記しておくと今後の理解に役立ちます!
原則1:ハザード分析
原則2:重要管理点の決定
原則3:管理基準の設定
原則4:モニタリングの設定と実施
原則5:改善処置(修正処置)
原則6:検証手順の確立
原則7:記録システムの確立
HACCPシステムとは、
この管理を失敗すると消費者の健康に大きな悪影響を及ぼすという管理点=重要管理点=CCPを事前に洗い出し(特定)、
その重要管理点=CCPの管理内容を上記の原則に沿って事前に詳細に定めて、
管理基準を逸脱しないように厳密に観察=モニタリングを行うことによって、予防的に問題のある製品を製造しない
という製造管理体系のことです。
その体系の中には、逸脱が生じて安全でない可能性がある製品が発生してしまった場合の処置(改善処置)もしっかり組み込まれなければいけません。
それでは、各原則について超入門レベルで概説していきます。
原則1:ハザード分析
製造工程の全ての段階において、
何が消費者の健康危害=ハザードになり得るか?
を「評価」(ランク付け)という手法を使って洗い出していきます。
製造工程の全ての段階において調べていくわけですから、事前資料として製造工程を明らかにするもの=フローダイアグラムを作成することが必要になります。
「評価」の方法論としては様々な手法が存在します。
危害に関しては、
生物的危害(病原性微生物等)
物理的危害(異物等)
化学的危害(薬物等)
に分類して評価表を作成していくことになります。
原則2:重要管理点の決定
上記の原則1の重要な目的の一つは、
この管理を失敗したら消費者の健康に大変な悪影響が出てしまうという重要管理点=CCPを決定する
ことにあります。
評価の基準に従って、重要管理点=CCPを特定・決定していきます。
例としては、「殺菌」や、金属検出機やX線異物検出機などを用いた「異物除去」などがあります。
重要管理点=CCPは一つの場合もあれば、複数個設定されることもあります。
原則3:管理基準の設定
原則2において、重要管理点=CCPが決定・特定されたら、次にその管理の基準を設定します。
「殺菌」でいうと、75℃で1分保持、、というようになります。
重要管理点CCPの管理の基準を特に「許容限界」と呼びます。要するに、管理の合格と不合格の境界線・境界点のことです。
大切なのは、「何となくこれだけやればいいだろう」というやり方で「許容限界」を設定することは許されないということ、、しっかりとした基準の妥当性が確保されなければならないという点です。
「殺菌」でいうと、75℃で1分保持という条件で殺菌を実施すれば、間違いなくターゲットにした病原性微生物を死滅させることが出来るという根拠をしっかり持っているかどうかということになります。
原則4:モニタリングの設定と実施
原則3で定めた管理が実施されているかどうかを、観察=モニタリングする手順を定めます。
ここで大切なことは、
管理が守られていることを観察するだけでなく、
管理が逸脱した時に直ちに発見できる手順とすること
になります。
観察=モニタリングを実施する担当者のことをモニタリング担当者と呼びますが、モニタリング担当者は誰がなってもいいわけではありません。モニタリング担当者として必要な力量が、教育訓練や製造業者による力量付与行為によって裏付けられていることが必要になります。
原則5:改善処置(修正処置)
管理の逸脱が発生した場合、すなわち、消費者の健康に大きな悪影響を及ぼす事態が発生した場合にどうするかを事前に詳細に手順化しておくことがHACCPシステムでは求められています。
この段階でするべきことは以下の3つです。
- 逸脱が発生しているわけですから、その製品はそのまま製品化できません。従って、逸脱が発生した製品の範囲を特定し、それらの危険な製品をラインから切り離し(識別・区分)、廃棄するのか、或いは再加工するのか、を事前に手順化しておく必要があります。
- 逸脱が発生している工程の状態を通常の状態に戻す必要があります。
このことを特に「修正処置」と呼びます。
- 逸脱が発生した根本原因を特定し、その原因を取り除いて、同じ逸脱が再発しないようにする必要があります。(再発防止)
このことを特に「是正処置」と呼びます。
それぞれの処置の実施担当者(責任・権限)を事前に明らかにしておく必要があります。
原則6:検証手順の確立
原則5までの管理が終われば、製造が終了というわけではありません。
モニタリングという管理が終了した後で、「正しく適切な製造管理が実施されていたかどうか」を確認する作業が残っています。
これが「検証」です。
例えば、モニタリングをする設備機器が元々狂っていたら話になりません。従って、適切に動作する設備機器であることを業者による点検により担保するなどの手順をあらかじめ規定化する必要があります。
製造管理のやりっぱなしではなく、管理が適切に実施・運用されていることの確認作業までシステムの中に組み入れているわけです。
原則7:記録システムの確立
ここまでに述べた6つの原則を支える「文書」「記録」そのもの、及びそれらの取り扱い等についてあらかじめ規定しておくことが求められています。
以上が超入門編におけるHACCPシステムの概説になります。
専門用語の使用は可能な限り避けて概説するように心がけてみました。このコンテンツを通して、皆様がHACCPの全体像を把握することのお役に立てれば幸いです。
「食品安全」とは何か?
まとめにかえて、最後に一つ付け加えておきます。
それは、最終消費者に健康危害を及ぼさないこと、、です。
当たり前のようですが、ややもすると食品製造業者の独りよがり、自分達の都合だけを考えるようになってしまうこともあるようです。
徹頭徹尾「最終消費者」に常に思いを馳せること、、これがシステムの理解・運用・維持に大きく寄与していくと思います。
「食品安全の達成」に向けて、皆様のご健闘をお祈り申し上げます。
コンテンツをご視聴いただきまして、ありがとうございました。